よるべない夜の果てに

窪美澄さんの新刊『じっと手を見る』を読んだ。

じっと手を見る

じっと手を見る

 

 

窪さんの作品と言えば、『ふがいない僕は空を見た』が有名かな。

ふがいない僕は空を見た (新潮文庫)

ふがいない僕は空を見た (新潮文庫)

 

 

それ以外の作品もちょっと性描写が多いけど、それすら好き。特に『よるのふくらみ』は名作。

よるのふくらみ (新潮文庫)

よるのふくらみ (新潮文庫)

 

 

本作は、富士山が見える地方都市が舞台。かつて恋人同士だった海斗と日奈は、介護士として働いている。そんな折、2人が卒業した専門学校を取材しに東京から来た宮澤に、日奈は心惹かれていく。
海斗の同僚・真弓や宮澤の過去、それぞれが自分と周りの歯車を狂わせてしまう…


窪さんの小説は、読みながら「あぁ、この人の書き方だな」ってわかりやすい。今回は特に、ある一文がパッと目に入って、物語の世界に引き込まれた。

 

ここが特に好き。

全身が太陽の光を吸収して、私のなかでひとつの力になっていくようだった。わたしはとてつもない自由を感じていた。ひとつ、恋が終わったというのに。

 

そして窪さんの作品は、心の奥の隠れた部分まで、じわっと、届く。
行き場のない気持ちを、周りの人にぶつけてしまう。そんな醜い部分も分かち合う。あぁ、この気持ちわたしだけじゃなかったんだ、ってどこかでほっとしていた。

 

窪さんの作品読んでると、めちゃくちゃ泣きたくなる。虚無感と、それでもなお、進めなければ、という思いでいっぱいになる。


わたしの中で、窪美澄作品の魅力は「性と生の共存」だと思っている。これは本作でも感じた。

寂しいという気持ちはきっと誰にでもあるけど、きちんと向き合わなきゃいけないな。

 

作中、ラストに「よるべない夜」というところが個人的に気に入って、今回の題にしました。