本は人生の道標となる~作家たちとの「交際履歴」~

※作家さんのお名前がいっぱい出てきますが、敬称略です。ご了承ください。

 

わたしにとって、読書は娯楽のひとつである。

本を手に取りページをめくるだけで、自分が体験しなかった人生を疑似体験できる。

こんなに手軽であり、のめり込める趣味はなかなかないのでは? と思う。


それと同時に、本は幾度となくわたしを救ってきた。


副題の「交際履歴」という言葉は、『さがしもの』(角田光代 著/新潮文庫)という短編集のあとがきで著者が選んだ表現である。

【恋人はひとりであることがのぞましいけれど、本の場合は、3人、4人、いや10人と、相性の合う「すごく好き」な相手を見つけても、なんの問題もない。そんな相手は増えれば増えるほど、こちらはより幸福になる。】と書かれている。

そういう意味で聞いてほしい。

 

これは、わたしと作家との交際履歴を綴ったお話。

そしてわたしの道標になった本を紹介していく。

 


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物心ついたときには、すでに本を読んでいた。

別に両親が読書家だったわけでもない。どちらかというと、両親は本を読まない人だった。

周りに本がある環境でもなかったけれど、わたしは引き付けられるかのように、小説、とりわけミステリー小説を選び、読み続けた。


絵本以外で最初に読んだ記憶があるのは、『にんきもののひけつ』という本だった。のちに森 絵都 著だと知った。このシリーズは気に入っていたので、今も実家にあるはず。

そして昼休みは図書室で、伝記か青い鳥文庫を読んでいるような小学生時代を送った。

 

中学生になったときには近所のTSUTAYAで『つきのふね』(角川文庫)という小説を買ったことが、本格的に本を読み始めるきっかけになった。ちなみにこの小説も、森 絵都作品である。

その日、『つきのふね』という本を手に取ったのも、ただの偶然だった。

わたしの作家との交際履歴は、森 絵都から始まっている。


森 絵都といえば、児童小説、青春小説の名手だと思っている。『DIVE!!』(角川文庫)や『カラフル』(文春文庫)は不朽の名作である。

数年前の作品だが、本屋大賞2位に輝いた『みかづき』(集英社文庫)という長編小説もすばらしかった。めちゃくちゃ感動した。

 

そのあとに読み始めたのは、東野圭吾。確か中学2年生のときだった。

東野圭吾という作家は偉大だ。様々な場所で見るキャッチコピーだが、まさに「日本を代表するミステリー作家」である。


彼の小説はよく映像化され、最近では舞台化もされている。実際に読みやすく、読者を本に没頭させる力があるように思う。

今は文系ゆえ『ガリレオ』シリーズ(文春文庫)の専門的な部分がさっぱりわからないが、来世は理系に生まれ変わって、もう少し楽しんで読むのが夢である。


大学時代、ビジネスホテルのフロントのアルバイトをしていたときは、『マスカレード・ホテル』(集英社文庫)がバイブル本だった。

表紙に採用されている、小説の舞台であるロイヤルパークホテルにも行ったことがある。わざわざ表紙と同じ角度で、文庫とホテルのロビーを一緒に写真に映すなどして遊んだ。


中でも加賀シリーズが好きで、東京へ遊びに行くたびにいわゆる聖地巡礼をしていた。

人形町もよく歩いており、小説の舞台になったお店に行けるのは楽しい。そして日本橋麒麟像は、見上げるたびに(勝手に)感極まってしまう。


ちなみに隠れた名作だと思うのは、『むかし僕が死んだ家』(講談社文庫)である。

 

高校時代は、村山由佳作品を読み始めた。

おいしいコーヒーのいれ方』シリーズ(集英社文庫)も、数年に渡って追いかけてきた。

昨年夏に完結し、安心した。ショーリ、かれん、本当にお疲れ様と言いたい。


村山由佳は最近、官能をテーマにした小説をいくつか書いていたが、それを読んで自分を重ね合わせたこともある。

当時コンプレックスだった「性欲の強さ」で同じように悩んでいる人がいることがわかった。

主人公のように奔放に生きようとは思わないけれど、少し気が楽になったこともある。

 

「好き」は人を引き寄せ、そして「好き」は立派な原動力になる という記事で書いた通り、高校時代に辻村深月という作家に出会い、読みこみ、さらにはのめり込み、今に至る。

そしてファン同士と繋がりながら、わたしは「推し」への向き合い方を知った。


また、「かがみの孤城」と言う名のセラピー という記事でも書いたように、うつ病真っ只中の自分と不登校の主人公・こころを重ね合わせ、舞台で号泣した。


スロウハイツの神様』(講談社文庫)という小説を読んでは、このままじゃダメだと自分に喝を入れられた気持ちになる。

何度も読み返した小説は、登場人物に「久しぶりだね、また会ったね」という気持ちにすらなる。登場人物に血が通っていると感じられるのだ。

 

大学時代には、原田マハの小説にハマった。

『本日は、お日柄もよく』(徳間文庫)という小説で、力強い言葉をもらった。その他にも、アート小説のみならず、史実とフィクションを組み合わせることが本当に上手。


特に『翼をください』(角川文庫)という小説が好きで、読み始めたら冒頭50ページくらいですぐに涙ぐんでしまう。

女性飛行家である主人公・エイミーの強さに憧れ、わたしも元気づけられるのだ。


アート小説は実に秀逸。特に『楽園のカンヴァス』(新潮文庫)は、アートを敬遠してきた人にこそ読んでいただきたい。わたしはここから印象派の沼にハマった。

アート作品そのものだけではなかなか感じ取れないものがあるが、その制作背景や人となりを知るだけで、一気にアートに深みが出る。名前を聞いたことあるくらいの画家が、一気に親近感を持てるようになる。本当に不思議なことに。

 

以上が、わたしの思い入れのある作家たちとの交際履歴である。

これからもどんどん好きな作家は増えるだろうし、それに伴って視野も広がるだろう。

また新たな人物の人生を疑似体験できるはずだ。


最初に取り上げた『さがしもの』という短編集には、本にまつわる様々な物語が収録されている。

あらすじに書かれた【無限に広がる書物の宇宙で偶然出会ったことばの魔法は、あなたの人生も動かし始める】という言葉がまさにその通りで、わたしの人生も本で彩られている。


本を読み始めて20年ほど経った今ではもう、本がなかった人生は考えられない。

人生の岐路にあるのはいつも本だった。何度、本に救われたかわからない。

そのくらい、本はそっと隣にいてくれる、そんな道標のようなものだった。

 

これからの人生も、きっと転換点のようなものはいっぱいあるだろう。

それでも、なんだか大丈夫だと思えるのは、今まで支えてくれた本があるからかもしれない。


今まで出会い、交際履歴の中に入った作家さんたちに最大限の感謝を込めて。